奄美映像フェスティバル 第2回奄美映像フェスティバル
2012年2月
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2009年07月28日

心で観た皆既日食

心で観た皆既日食日食の日が近づくにつれて、その時間になると手を休めて空を見上げるのが日課になった。庭の向日葵までも当日の晴れを願うように重い花弁を向けている。山裾にある自宅で森の様子も聴きながらその時を過ごすのもいいなとも思いつつ、日食当日、夜明けから私は車を走らせていた。
家を出る時刻に車はまだ一台ほどしかすれ違わなかったのに、コンビニ付近で先を急ぐ車が増え始めると焦る。混雑しているようであれば、誘いのあった知人の所へ向かおう。そう自分に言い聞かせて龍郷町の埼原ビーチへ車を進めた。
いざ到着してみると、そこには五、六組のグループ連れがゆったりとその時を待っていた。北西の方角に水平線が開けた笠利湾。左には今井権現を抱く今井岬が突き出している。視界には見えないが、龍郷湾がその奥に入りこむ。背後には雑木林。白々と東の空が明るくなってきた。北から海風が強く吹き、どんよりとした厚い雲の流れは早い。
このまま雲を東シナ海へ運んでって。
やっと朝日が昇るも顔を出してくれない。こんな時だけ朝日を拝んで、と叱っているよう。蝉が鳴き、トンボや蝶が舞い始めた。
隣で控えていた男性の二人組が沖縄からの観光客だと、連れの友人だと教えてくれた。キャンセル待ちでやっとの思いでフェリーとレンタカーを押さえ、二泊三日の予定で入ったという。私の実父や妹、友人達は移動便が取れずに諦めたのだが、結局今日という日は、沖縄の人と過ごす日なのかもしれない。男性の一人は祖母が奄美大島宇検村の出身で、ちょうど旧暦六月一日に合わせて昨日墓参りができたそうだ。沖縄では旧暦毎月一日十五日には台所の火の神に拝みをする習慣があるが、奄美大島では仏壇とさらに墓参りを重んじる風習に深く興味を示、今でも墓を管理して下さっていることに大変感謝していた。睡眠不足を解消する小休止の時間はほど良い歓談となった。
食にかかる時間が迫り、カメラを回す。浜辺の人たちはのんびり寝転がり、日食グラスを時折かかげ、空を見上げている。
本当に日食は起こるのだろうか。
人が多いということを除けば、全く普段と変わりない一日だ。雲は相変わらず厚く空を覆ったまま。日食グラスで太陽を見ても、雲が厚くて映らない状態にイラ立ちと不安が交差する。
まあ、これもいつもの奄美大島だけどさ、昨日までのあの晴天を見せてくれないかなぁ。
祈るように空を仰ぐ。絶対晴れる!
九時三十五分。食に入った。気温は三十二度。雲は厚く覆われたまま。雲がフィルターとなって肉眼でも日食が見える。曇りなので照度が落ちているのかほとんどわからない。
十時過ぎ。約五十%欠けた頃、今にもスコールが降りそうな暗さ。蝉の鳴き声がぴたりと止み、トンボが姿を消した。蝶は仏葬花の下へ籠る。
北西方向の空は雨雲がやってくるように暗く重い。厚い雲の向こうの太陽はまだ強い光を放つも、日食グラスで見えない。
皆既に入る十分前。北西の空は一段と暗くなり、西方向の空が夕焼けのように染まり始める。日食焼けと呼んだらよいのか。
黒い空に突き出た岬の燈台に光が灯る。雑木林側にいた人達がぞくぞくと浜辺に降りてくる。日食焼けに映る島影が美しい。黒い空と日食焼けの茜色のコントラストが益々くっきりしてくる。
皆既に入った。
西空の日食焼けとその真上の真っ暗な空の境目は太陽の光を浴びた色でで区切られ、見事なグラデーションを描いている。そこに浮かんで光を受けている筋雲のがさらに細かい陰影を見せている。気温は三十度。少しひんやりしてきた。
完全に闇で包まれた。西空の日食焼けと燈台そして撮影光が闇に浮かぶ。
このまま太陽が顔を見せなかったらどうなるだろう。そんな思いがふとよぎる。日食をただ偶然一人で遭遇してしまったら、そら恐ろしいものに違いない。
暫くすると空が明るくなってきた。北西の黒い雲が東へと流れる。正に月の影だ。雲がスクリーンの役割となって映し出された。月の影がインド方面からやってくるというので北西をのぞむ水平線で待ち構えていた甲斐があった。
国をあげた観測からレジャーへと変遷し、今では婚姻届や婚約まで交わす個人のイベント化した日食観測。その反面、太陽と月の結婚式、太陽が月を喰らう話など様々な神話が語られるこの島で、皆既日食を鑑賞できたことは本当に素晴らしい体験だった。今回姿は見せなかったが、雲の向こうに黒い太陽とダイヤモンドリング、一面の星空を心で観た。二十六年後に再び日本で出会える日まで待てるかどうか心配だ。


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Posted by しまあそび at 14:39 │Comments(0)皆既日食
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